ふたりのために

 

今日は私の誕生日。

学校へ行って、

友達からたくさんのプレゼントを貰って、

たくさんの笑顔を貰って、

私はウレシイ・・・

 

ただ、放課後学校から出て行く相沢君と栞をみて、

私は・・・わたしは・・・

 

 

 

 

香里「ただいま」

そう言って玄関のドアを開けると、

一斉にクラッカーが鳴った。

父・母「香里、誕生日おめでとう」

栞「お姉ちゃん、誕生日おめでとう」

そして、

祐一「香里、誕生日おめでとう。 それにしても帰ってくるのが遅いぞ」

・・・居るのは分かっていた。

だから、あまり家には帰りたくなかった。

彼の前では、私が私でいられなくなる。

 

 

リビングには、たくさんの料理が並んでいる。

私たちは、席について食事をとり始める。

母「今日は、父さんも、栞も、相沢さんも手伝ってくれたのよ」

香里「そう・・・ありがとうね。 みんな」

そして私は笑顔を見せる。

祐一「・・・・・・?」

 

 

私は、みんなより先に自室に戻った。

あれ以上あそこには居られない。

 

 

 

考えないようにしているのに・・・

 

あまり、近づかないようにしているのに・・・

 

気が付くと、彼の事を考えている。

 

彼の背中を目で追っている。

 

押さえきれないこの気持ち。

 

 

 

・・・抱きしめてもらおう。

 

 

 

一度でいいから、きつく抱きしめてもらおう。

 

あの時のように・・・

 

雪の舞う夜の学校で、栞の事を話したあの時のように・・・

 

それで・・・この思いを心の奥に・・・

 

私の初恋を、心の奥にしまおう。

 

私が部屋を出ようとした時、

ノックと共に相沢君が部屋に来た。

香里「ど、どうしたの?」

祐一「いや、プレゼント渡そうと思って・・・」

香里「・・・・・・プレゼントはいらないわ」

祐一「・・え?」

香里「いらないから・・・・・・抱きしめて。 一度でいいから、きつく抱きしめて!」

私はそう言って相沢君の胸に飛び込んでいく。

祐一「か、香里・・・・・・・・・わかった」

相沢君は私を抱きしめてくれた。

 

 

長い時間、2人は会話の無いまま抱き合っていた。

 

 

突然のノック。

ガチャ

栞「お姉ちゃん、祐一さん知りま・・・あっ!」

私は素早く相沢君から離れたが、もう遅かった。

栞は私と相沢君を交互に見ると、笑顔で・・・

栞「祐一さん、うまく行ったんですか?」

うまく?

香里「どういうこと?」

私は相沢君に問いただした。

相沢「いや、実はまだなんだ」

意味がわからないわ。

考えていると、相沢君は真剣な表情でこちらを向く。

相沢「香里、プレゼントを・・・受け取って欲しい」

そう言って、ポケットから指輪を取り出した。

香里「え?・・・これって・・・」

祐一「香里、好きだ」

香里「・・・・・・」

祐一「初めて会った時から好きだった。俺と付き合ってくれ」

うれしい。

うれしいけど・・・

香里「だめよ。 それはできないわ」

祐一「どうして? ほかに好きな人がいるのか?」

 

栞を・・・裏切ることになるから。

 

香里「ううん、私も・・・相沢君の事が好きよ」

 

栞を傷付ける事は、もうしたくないから。

 

祐一「なら、どうして・・・?」

 

栞を裏切る相沢君は私の好きな相沢君じゃないわ。

 

香里「栞が貴方を想っている限り、私は貴方と付き合えないわ」

 

祐一・栞「!?」

 

香里「・・・ごめんなさい」

 

祐一「・・・・・・」

栞「お姉ちゃ・・・」

何かを言いかけようとした栞を、

相沢君は制した。

 

相沢君はやさしい表情で、こちらを見ている。

そして、私を再び抱き寄せた。

香里「あっ・・・」

そして、優しく私の髪の毛を撫でている。

祐一「栞想いのやさしい香里。 そういう所も好きだよ。 でも・・・」

祐一「もう、自分を押し殺す事はしなくていいんだよ」

その言葉は優しくて、そして力強くて・・・心の奥に響く言葉。

祐一「それと、栞にはちゃんとした彼氏がいるぞ」

香里「う、うそ・・・」

祐一「嘘じゃないぞ。 なぁ栞」

栞「ええ、祐一さんよりかっこいいんですよ」

栞は顔を真っ赤にしながら、彼氏のことを話してくれた。

 

祐一「お〜、のろけてくれるじゃないか、栞」

栞「えへへ」

そう言って恥ずかしそうに部屋を出ていった。

 

祐一「信用してくれた?」

香里「・・・ええ、あっ・・・」

また、相沢君が抱きしめてきた。

祐一「俺は香里が好きだ。 香里は俺のこと嫌いか?」

耳元で囁くようにそっと聞いてくる。

私は少し照れながら、さっき言った事をもう一度言う。

香里「さっき言ったじゃない。 私は相沢君のこと好きよ」

相沢君の腕に力が入る。

祐一「今度は俺たちが栞にのろけ話を聞かせてやろう」

香里「う、うん」

溢れる涙を拭いもせず、いつまでも抱き合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

これでよかったよね?

 

だって私、お姉ちゃんの事も大好きだから・・・

 

 

おわり


あとがき

どうも、和井です。

「愛惜の思い」の続きです。

この「ふたりのために」の題名は最後の言葉に掛かってきます。

わかりますよね?

 

あ! 栞・・・香里にプレゼントあげてないや。

ま、いいか。

暇があれば私のHPにも来てください。

では。

 

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