表情豊かにという意味だそうです。

真琴が消えた後、

可愛らしい美汐の笑顔を見てからだろうか・・・・

何故か俺、相沢祐一が下校しようとすると天野美汐に会う事が多くなった・・・・・

いや・・・それだけでなく朝も昼もだ・・・・

学食では


「ここよろしいですか?」

香里や北川達と食べていると隣が空いた瞬間に天野がやってくる。

「お、天野も今日は学食か?」
「はい、恥ずかしながら最近朝が起きられないもので・・・」
「あはは、どっかの誰かほど起きられない訳じゃないんだろ?」
「それは当然です。」
「う〜〜・・・酷い事言ってる?」
「「そんな事は無い(です)」」



「あ、相沢さん、偶然ですね今帰りですか?」

・・・・本当に偶然か?




ESPRESSIVO

高校生活も残り一年を切り、
真琴の望んだ春は毎日の様にものみの丘で過ごしている。
一人で来ていてもいつのまにか天野が横で同じく寝そべって空を見ていた。

「せめて現れた時は声をかけてくれると嬉しいぞ。」
「気持ちよさそうでしたので・・・以後気を付けます。」

そんな感じで気が付くと天野が隣に居る風景が当たり前になってくると
猫イチゴジャンキーなどが騒ぎ出したりもした。

起こし方や晩ご飯で脅され、
只でさえ遅刻する確立が多い事など受験にマイナスな事が多い・・・

そうなると横に居るだけでも何か安らげる天野の側に居る事を自分でも意識する様になると
名雪達はますますヒートアップしていた。

佐祐理さん達は推薦で大学は合格していたが入院の為に入学式には遅れたものの、
無事に入学して今はこの街から離れた所で二人で暮らしてる。
栞は自宅静養・・・香里による軟禁・・・の甲斐あって一年生で復学。
どこをどう間違ったのか普通以上に元気になりやがった。
嬉しいやらアイス奢らせようとしてくる事が悲しいやら・・・
まぁ、それは香里が押さえてくれるから助かっているけど・・・・
結局は同居となって勉強に励むたいやきうぐぅと
いちごジャンキーが残る凶悪となるわけだ・・・
退院したとはいえ秋子さんに今までと同じに家事をさせる事はしたくない、
よって朝食を作れるのは俺だけ・・・
パンにしかならないよなぁ・・・
夜は名雪が紅ショウガで脅してくるから自然帰るのは寝る為だけとなるのだが、
朝起こさない、夜は眠ったであろう時間を計算して帰宅する。
そうなると名雪の恨み言は学校で、と、なりクラスのみんなにも迷惑甚だしい・・・
しつこいぐらいにいちごサンデーを奢らせようとしてきやがる。
それが「家族だよ。」なんて言った人間のする事か?
故に俺はもうこの家に居る気も無く、
親と教師だけに志望校を教えて一人さっさとこの北の街を離れた。

忘れるのでは無く、自分から切り捨てて・・・・

天野によって与えられる安らぎではもう耐える事が難しくなっていたのだ、
だから・・・・



あれから二年

いきなり一人になったギャップもあり俺は勉強に走り、
今は必須単位も取得して専門課程に進んでいる。

実験だのレポートだのに追われる毎日、
気分転換に普段通らない階段を使おうと扉を開けた。

どんっ

「きゃっ・・」

扉の向こうに誰か居たみたいだ。
それも女の子・・・
俺は慌てて扉の向こうで座り込んでしまった女の子に声を掛けて、散らばった荷物を拾い始めた。

「すいません、不注意でした。」

書類を纏めて手渡そうと空いての顔を見たら、
そこに北の街に置き去りにしてしまった天野美汐が居た。

「あ、天野?」

差し出した手を握って天野が立ち上がる。

「お久しぶりです、相沢さん。」
「あ・・久しぶりだな・・・」

切り捨てた・・・

そう思っていた俺はなんか恥ずかしさもあって普通に返事を返す事が出来なかった。

「あ・・この後時間あるか?良かったらお茶でも・・・」
「はい、このレポートを提出して来れば今日は終わりですから・・・」





俺は天野を誘って行き着けの喫茶店へ案内した。

「天野は何がいい?」
「え〜と、それでは私も珈琲を。」


沈黙が続く・・・
何を言っていいのか・・・

「あ・・」
「あの・・・」

うわ・・・お約束状態・・・

「天野から・・」
「相沢さんから・・・」
「「・・・・」」
「クス・・・栞さんだったらドラマみたいと言う所ですね。」
「そ、そうだな。」

二人して笑う。

「まさか天野と会うとはな・・・もしかして追いかけて来たとか?」
「ぐ、偶然です。」

いきなり核心とばかりに顔をこわばらせる、
会えた嬉しさが先に来ているか、顔を赤くしてポーカーフェイス失敗の天野だった。

「すぐに声を掛けてくれれば良かったのに。」
「で、ですから偶然ですっ、」

俺は三回生、天野は二回生・・・
最高でも一年は俺を見ていたんだろうな・・・・

「ん?そういえば同じサークルのが物陰から誰かを見つめる赤毛の美少女の噂を・・・」
「そ、そんな事ありません、わたしが美少女だなんて・・・・」
「つまり物陰で見ていた事は否定しない・・・と」
「そ、そんな酷な事は・・・・」
「ま、そういう事にしておこう。」

再び沈黙が訪れる。
祐一はカップを弾いてその波紋が収まった時。

「・・・あれから・・・どうした?」

切り捨てた祐一が言う言葉では無いのは解ってるのだが聞かずにはいられなかった。

「誰かさんのせいで酷い有様でしたよ。」
「そ、そうか・・・」
「あそこまで自分は悪くないと言える人も初めてです。」

その言葉に祐一は従姉妹らの顔が浮かんだ。
自分は7年想ったのだから祐一も自分を想っていたはずと決めつけていた従姉妹。
出会いをTVドラマと重ねて押し付ける少女。
目覚めたからと贖罪せよと言わんばかりに幼い想いを押し付ける少女・・・

「引き留めなかった私が悪いとまで言い始めまして・・・」
「す・・・」
「謝罪はいりません、相沢さんはそうしても仕方なかったと思いますので・・・」
「そ、そうか・・・サンキュ・・・」
「私もあの街を離れたかったのです・・・」

祐一は珈琲を飲むのも忘れて美汐の次の言葉を待った。

「いつか会う事があったら恨み言の一つも言いたかったです、キャンパスの貴方を見るまでは・・・」
「そんなに酷い顔していたか?」
「そうですね、少なくとも昔の私に近いぐらいに人と触れる事を拒んだ顔をしていました。」
「そうか・・・」


その後に何を話したかは覚えていない、
只、俺の心の中に埋み火となっていた天野への想いが再燃した事だけは解った。
いや、元々あの頃から燃えさかっていたのに自分で隠してしまっていただけだったのだろう・・・

「あ、天野、今何処に住んでるんだ?」
「南街にある女子学生会館という寮です。」
「寮か・・・残念。」
「残念?」
「今住んでる賃貸アパート改装で出ないとならないんだよなぁ・・・」
「・・・ころがり込むつもりでいたんですか?」
「新たに入居となるとお金がいるだろ?」
「・・・まったく・・・・」
「ま、まだ一ヶ月あるから何とかするさ・・・」

そういって祐一は珈琲を飲み干した。

「相沢さん、」
「ん?」
「・・・私・・・丁度寮を出ようかと思っていたのです。」
「なんだ、それならいっそ同棲してしまおうか?」

さすがに再会初日で一気に同棲も無いだろうと、祐一は冗談っぽく言った。

「さすがに同棲は両親に言えないですね、私と同じで古風な所がありますので・・・
いえ、私は別に言わなくても良いのですけど、電話は各自で携帯を使えばいい事ですから・・・
住所は・・・・伝えて様子見でいきなり来られたら困りますね・・・・」
「あの・・・天野さん?」
「不動産の契約での保証人の問題もありますね・・・でも一人と言うのも反対される可能性もありますね・・・
ここに通うのも寮に入る事で認めさせたのですから・・・・」
「なら結婚でもしないと駄目だな。」
「相沢さんっ!」
「な、なに?」
「それです、結婚しましょう。」
「はいっ!?」







それから両親に連絡、

「君が噂の祐一君か・・・・美汐を頼んだよ。」
「いえ、そんなあっさりと・・・」
「貴方と出会って美汐も明るくなったのよ〜わざわざこの大学を選んだのもその為だったのね〜」
「はぁ・・・・」


「まぁ・・・アンタは秋子の所から出て以来自分で突き進んでいるからねぇ・・・」
「私とかあさんの様にお似合いだな。」
「・・・それはさりげなく自画自賛か?」
「秋子の方はどうするの?」
「母さんから事後報告しておいて。」
「・・・アンタがそう言うのなら・・・住所は伏せておくのね?」
「あぁ・・・」



とまぁあっさりと決まって速攻入籍となってしまったのだった・・・


お互い大学の友人を呼んだだけの簡易な結婚式だったのだが、
こっそり佐祐理さんと舞、香里が来てくれていた。

「あはは〜おめでとうございます祐一さん。」
「おめでとう、でも残念、三人で住みたかった。」
「おめでとう、相沢君、栞に内緒で来るのは大変だったわよ〜、あとこれ北川君からの手紙。」

何故ここに?と声の出ない祐一に美汐が小さく答えた。

「祐一さんが居なくなってから、お二人にはずいぶん助けて頂きましたので・・・」
「なるほど・・・進学先は佐祐理さんが調べたな?」
「あはは、ごめんなさい祐一さん、でも香里さん以外は誰も知らないですからね。」

ありがたい・・・あいつらに乱入されたらめちゃくちゃになる可能性もあるし・・・

「そして勉強はあたしが見たのよ、相沢君何げに偏差値高い所に入るんですもの・・・」

どうやら祐一が居なくなった衝撃で美汐は成績を落としていたみたいだった。

「美汐さん、良い表情してますね〜〜っ。」
「そうでしょうか?」
「やっぱり相沢君と一緒だと違うものね・・・」

似た様な事は美汐の友人からも聞かされた。
丁度再会した日あたりから美汐の表情が多くなり、笑顔がぱぁっと明るくなったとか・・・
その笑顔を見てコンパに誘ってきたのも居たみたいだ・・・
現在人気急上昇中で、結婚を知った男共が嘆いているそうな。





横の美汐を見ると、丁度タイミングを合わせた様に美汐も祐一を見てクスっと微笑んだ。
嬉しそうにしきりに左手の薬指を確認している。

一度切り捨てたと思っていたものが帰ってきたんだ、
祐一は美汐の笑顔を死ぬまで守ろう誓い、みんなの前で口付けた。


「正妻の座は逃してしまいましたけど、佐祐理と舞で2號、V3を目指しますよ〜っ」
「・・・あたしがライダーマンなの?・・・」

そんな会話は聞いていません、聞いていませんったら・・・・



「相沢さんっ!」

友人と歩いている所を後ろから声を掛けられた。

「・・・相沢さん、相沢さん、相沢さん、・・・・はふぅ・・・・」
「あ〜・・・美汐、又トリップしてるよ・・・・」

相沢美汐になって数ヶ月・・・・
相沢と呼ばれるたびに感極まる美汐に友人達もいい加減呆れていたそうな・・・・

[PR]動画