「雪解け水の瀬に咲く花の名は」


いつもの朝のはずだった・・・

確か、夕べは、一人で寝ていたと思ったのだが・・・・

「く〜〜・・・」

朝、目覚ましが鳴る前に起きたら隣に名雪が寝ていた・・・

「く〜〜〜・・・」

従姉妹から恋人になった、俺の眠り姫・・・

「・・・可愛い寝顔だよな・・・」

俺はほっぺをつついてみる。

ふにふに

「く〜〜〜・・・」

ふにふに

「く〜〜〜〜・・・」

ふにふに

「く〜〜〜〜〜・・・かぷっ、」

はぅぅっ、

噛まれた・・・・

「・・・そろそろ起こさないとな・・・」

今日こそは、朝食を食べて、余裕で学校に行きたい・・・
・・・と、切実に思う・・・

「起きろ〜・・・」

ゆさゆさ

「く〜〜〜〜〜〜・・・」

ゆさゆさゆさ・・・

「うぉ〜〜〜地震だお〜〜〜・・・」

ふっ、・・・

「けろぴーがどうなってもいいのか?」

ゆさゆさゆさ・・・

「けろぴーは部屋だお〜〜〜〜・・・」

・・・・

「すでに起きてるだろ、名雪・・・・」

・・・・・

「うにょ?・・・・・・
キス・・・・」

何?

「・・・・あのジャムを口に含んでくるかな?」
「わ、それは嫌・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「名雪・・・・」
「あ、あははは〜っ、(汗)」
「佐祐理さんの真似しても駄目。」
「えぅ〜・・・」
「似てない・・・」
「そんな酷な事はありません。」
「おばさんくさいぞ・・・」
「・・・く〜」
「寝るな!」
「う〜・・・祐一意地悪だよ・・・」
「・・・・」
「わ、無視して着替えないでよっ、」
「名雪も早く着替えて来いよ。」
「う〜〜〜・・・」

Cyu・・・

「あ・・・」
「下で待ってるぞ。」
「う、うん!」

祐一がリビングに降りてくると、秋子さんはすでに朝食の準備を整えていた。

「おはようございます、祐一さん。」
「おはようございます、秋子さん。」

いつものように席に着き、のんびりご飯を口にする

「名雪はまだ寝てるのですか?祐一さん。」
「今、着替えてますよ、又寝なければ大丈夫ですよ。」
「そうですか。」

二階の奥、いかにも寝ぼけ眼な二人が階段から・・・・



落ちた。



どんでんどんでんどんでんどんどん・・・

「あぅ〜・・・」
「うぐぅ・・・」

いつもの事なのか、まったく動じない祐一、

「おはよう、真琴、いつもだが、ちゃんと前を見ろよ。」
「あぅ〜・・・うるさいわよ、祐一・・・」
「おはよう、あゆあゆ、顔から激突する癖は直した方がいいぞ。」
「うぐぅ・・・あゆあゆじゃないもんっ」

秋子が渡したパンを、見ないで口にした祐一は、

「あははははは・・・」

その異様な味に一瞬で凍った・・・
おそるおそるパンに塗られたものを見ようと目を動かす、
あゆと真琴もつられて見ると・・・

・・・オレンジ色のジャムが塗られていた・・・

「ぐはぁ」
「あうっ」
「うぐぅ」

三人は声をそろえて「ごちそうさま」と言うやいなや、リビングから脱出した。
丁度名雪が階段から下りて来たので、祐一はそのまま名雪を抱えて家を飛び出した・・・

「わ、わたし、朝ご飯まだだよ〜・・・」

祐一に拉致られて学校に向かう名雪は

「う〜〜〜朝ご飯・・・」

とずっとうなっていた、

「今日は奇跡的にゆっくりと登校だなぁ・・・」
「酷いよ、祐一、極悪だよ。」

祐一が何を言っても同じ繰り返し、でも、名雪も登校の足を止めないのは、
一緒に登校したいからだろう・・・だが、この一言で状況は変わった。

「でもなぁ・・・名雪、今日の朝はみんな新作だぞ・・・」
「え?それって・・・」
「そう、」
「わ、・・・それなら・・・」
「解ってくれた?」
「うん、イチゴサンデーで許してあげる。」

黙って祐一は名雪に自分の財布をわたした。

「何?」
「中を見てごらん?名雪。」

名雪が中を見ると、そこには120円しか入っていなかった・・・

「あれ?これだけしか入って無いよ、祐一。」
「・・・名雪・・・今月何杯ご馳走したかな?」
「あ・・・」
「と、言うことで、今日からしばらく昼代も無い、だから当分無理。」
「う〜・・・ごめんなさい祐一・・・」

ぽふっっと名雪の頭に手を置く祐一。

「気にするな、好きでご馳走してるんだから、ま、名雪がお弁当でも作ってくれればなぁ〜。」

祐一が最後に軽く言った言葉を聞くと、名雪の目が一瞬ピキューンと光った。

「解ったよ祐一、明日から、わたしがお弁当を作ってあげる。」
「・・・嬉しいが、苺づくしはやめて・・・」
「う〜・・・美味しいのに・・・」
「俺は名雪の色々な料理が食べたいな。」
「うん、」

祐一は名雪の頭に乗せた手を後頭部に回すや、

「じゃ、約束手形だ。」

と、ふれるだけのキスをした。

「わ・・・」



合流しようとしていた二人がつぶやいた・・・

「・・・朝から良くやるわね・・・」
「ぇぅ・・・祐一さん・・・」


「それにしても・・・」

歩きながら、香里が口を開く、

「何だ?香里。」
「ふたりが居るって事は、あたし達は走る必要があるみたいね・・・」
「・・・ぇぅ・・・私はそんなに走るの速くないですぅ・・・」
「そうだな・・・走るか・・・」
「う〜〜・・・みんな酷い事言ってない?」

真剣な顔をして言い合う3人に、名雪が膨れる

「そんな事ないぞ、当然の反応だろう。」
「そんな事無いわよ、当然の事ですもの。」
「そんな事ないですよ、当然の事ですから。」
「う〜〜〜・・・」

名雪はさらに拗ねて唸る

「と、言うことで、」
「「「?」」」

祐一が次に何を言うか、3人は、ひょいと顔を向ける。

「遅刻をしたくないから、先に行く。」

というや、手を取ってダッシュし始める。

「あああああ相沢くん???」
「・・・ぇぅ〜〜お姉ちゃん、祐一さ〜〜ん、待って下さい〜〜」

栞も追いかけて走り出した
祐一は冗談交じりで、見ないで手を取った為、名雪でなく香里の手を取ってしまったのだ・・・
ポツンと取り残される名雪・・・

「・・・・わっ、わたしを忘れないでよ〜〜」

と、慌てて後を追いかけてた。









「まったく・・・名雪と間違えてあたしの手を取るなんて・・・。」

下駄箱前、口では怒っているものの、顔を赤らめ、嬉しそうな香里が
祐一を責める、

「いやいや・・・すまないね〜」

香里の慌てた顔が見れたせいか、にこやかにあやまる祐一
端から見たら、恋人同士のじゃれ合いに見える雰囲気が、
祐一は、8人と同時に付き合っているという校内の噂を強化するものであり、
生徒会長や、金髪アンテナ男、名前しかない男を中心に、反相沢同盟(負け犬の遠吠え同盟)
のメンバーが増えたのは、別の話

「く〜〜〜・・・」
「・・・いつもながら良く寝るわね・・・」

授業中、熟睡する前の席の親友を見て、香里はその横に目線を移す
朝のダッシュに身体が慣れたのか、きちんと見た目には祐一は授業を受けている
しかし、香里だけは知っていた、
名雪が寝ながら会話をする特技と同じ様に、
祐一には居眠りをしながら授業を受けられる特技があったのだ、
しっかりと背筋をのばして、ノートまでちゃんととる、
さらに、教師の質問にすらちゃんと答えるのだ、
香里も、授業中に話しかける事が無かったら、気付かなかったかも知れない・・・
恐るべしは、その睡眠学習の効果がある事・・・

お昼

チャイムが鳴る直前に名雪は

Aランチだお〜

と、叫び
祐一は無表情で立ち上がり
早々に教室を出る

「・・・栞は今日も負けね・・・」

自己中心な栞が作る致死量を超える量の弁当を食べさせられてから、
祐一は寝たままであっても、チャイムが鳴ると教室を出る
すると遅れて栞が駆け込んで来るのだった

「祐一さぁぁぁん!」
「残念ね、栞。」

そう言って香里も名雪を追いかけて教室を出た・・・

「ぇぅ・・・せっかくのお弁当・・・」

その弁当は香里を口説く前に栞を味方にしようと企む金髪アンテナ付きの少年の腹に収まるのであった



「はみゅ・・・いちごムース美味しい・・・」

はみゅはみゅと学食でAランチしか食べない事で有名な猫いちごキ○ガイ・・・
良くも飽きないものだ・・・

「・・・う〜〜〜・・・祐一・・・酷いよ・・・」
「へっ?・・・又?」
「そうね、いつもの事だけど、しっかりと口に出していたわよ、相沢君。」

祐一と同じく日替わりのカレーきしめんを食べている香里が呆れる様に突っ込む。

「う〜〜いちごサンデー3つ・・・」
「無理だ。」
「なら今日の晩ご飯は紅生姜だよっ、祐一。」

すごみもなにもあったものじゃない、ふくれっ面の名雪がいつもの様に祐一を脅すが・・・

「もう、一年分前借りした小遣いが、名雪のいちごサンデーなどに消えたからな。」
「そうなの?相沢君。」
「あぁ、名雪は、一つと言いながら一つで済んだ試しがない。」
「・・・それは大変ね・・・」
「さらに、バニラアイスにたいやき、にくまんと、俺にたかるのが多いからな。」
「そうなんだ・・・」
「ちなみに言った順番が金額の順番だな。」
「・・・名雪ってかなり酷い娘だったのね・・・」
「う〜〜・・・香里ぃ・・・」
「と言う事で、最低一年は無理だな、名雪。」
「う〜・・・」

納得が行かない表情のまままだふくれている名雪

「それでもまだ脅すのか?名雪。」
「う〜〜でもぉ・・・」

意地でも祐一に奢らせようと言うのか名雪・・・

「そうか・・・なら、名雪を捨てて香里の想いに答えるかな?」
「なっ、なななななななななななななな・・・何言ってるの?相沢君!
嬉しいけど・・・・

と言ってる香里の顔は真っ赤・・

「だっ、だめだよっ祐一!そんな事許さない!!」
そうなったら・・・朝は家まで行って朝ご飯を作ってあげて・・・お昼は二人で手作り弁当・・・夜は一緒にご飯を作って・・・そのあと・・・キャッ・・・」

香里はぶつぶつと妄想の世界に入っていた・・・

「「香里・・・・」」
「はっ・・・そ、そういう訳だから、あい・・・祐一はあたしが貰うわ。」

と言うやいなや香里は食堂の衆人環視の中、祐一にキスをした。
たっぷりとディープで、五分以上はしていただろう・・・
ほにゃらと祐一が崩れ落ち、凍っていた名雪が雄叫びを上げた。

「だおぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜」

祐一を引きずって保健室?へ向かった香里がいなくなり、
食堂には灰になった名雪が残された・・・

自分中心過ぎた名雪が捨てられたとの噂は一日にして学校中に広まり、
雪解け水の瀬に咲く花は見て楽しむには良いが、摘んでは痛い目に合う
というたとえとして、学校に永遠に語り継がれる事となった。





・・・・・・・・・・はっ・・・・

「・・・・夢?・・・・」

今日は日曜、目覚ましを鳴らさないでゆっくりと眠っていた名雪だったが、
甘い夢が悪夢に変わり飛び起きた

「う〜・・・・・」

ふとベット再度を見てみると、そこには

「夢でもあたしの祐一とらぶらぶは許さないわよ。   香里(にこっ)」

と書かれた手紙とオレンジ色のジャムが置いてあった。

「だぉ・・・・」





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