香里のいる朝に



bySPU





『朝〜朝だよ〜』

………。

『朝ご飯食べて学校行くよ〜』

ん…

『朝〜朝だよ〜』

………。

眠い頭を何とか起こす。

いつもながら、我ながらこの目覚ましで起きられるのは凄いと思う。
まあ慣れってやつだろうな…

ふらふらと部屋を出る。

だんだんだんだんっ!

祐一「名雪〜起きろ〜」

部屋の外から声をかける。

だんだんだんだんっ!

祐一「起きろっ! 名雪っ!」
 
 
 
 
 
 

………
 
 
 
 
 

しーん。
 
 
 
 
 

祐一「ったく …置いてくぞ?」

ほどほどにして下へと向かう。
 
 

祐一「おはようございます」

香里「あ、おはよう相沢君」

いつものように挨拶を交わす。

祐一「コーヒーか何か頂けます?」
香里「ええ。砂糖とミルクは?」
祐一「砂糖はいいですよ。あ、ミルクは少しお願いします」
香里「ちょっと待ってね…」 

こぽこぽ… 

香里「はい、どうぞ」
俺の目の前にコーヒーの注がれたコップが現れる。 

祐一「どうも」
そしてそのまま俺は煎れてもらったコーヒーを口にする。 

香里「名雪は?」
祐一「いつも通りですよ」 

…しかしこのコーヒーは美味い。
配合の仕方が絶妙と言うか何というか。
とにかく美味いのである。 

 

香里「ってことはまだ寝てるのね…」
祐一「そのうち起きてきますよ」
香里「ならいいんだけど…ちゃんと間に合うんでしょうね」
祐一「…多分」
香里「…はあ。ま、いいわ。先にご飯食べちゃいましょ」
祐一「そうですね」
香里「相沢君、ジャムどこにあるかわかる?」
祐一「は? なに言ってるんだ香里…」

 
 


…………
 
 
 
 

…って香里? 
 
 
 

ぶーーーーーーーーっ!!!

香里「いっ、いきなり何よっ?」
思いっきり飲んでいたコーヒーを吐き出してしまう。 

祐一「ゲホッ…な、なんでお前がさも当然のようにここにいるんだっ!」
香里「…まさか今まで気付かなかったの?」
祐一「お、お前があまりに自然にいるからな…」

あらためて香里を見る。


…制服の上にエプロン姿。
妙な色気があるのは気のせいだろうか。

 
 
 

祐一「なかなか似合ってるぞ」
香里「あら、誉めても何も出ないわよ?」
祐一「だろうな」
香里「なによそれ…」
祐一「言葉通りだ」
香里「…はあ」
呆れ顔の香里。

 
 

祐一「まあそれはいいとして…何でおまえがここにいるんだ?」
香里「…秋子さんから聞いてないの?」
祐一「秋子さんから?」
香里「まあさっきの様子じゃ聞いてないのね…ま、秋子さんらしいといえばらしいんだけど」
祐一「どういうことだ?」
香里「婦人会の旅行らしいわよ」
祐一「旅行?」
香里「ええ。日帰りだけどね。家のお母さんも一緒に行くって言ってたし」
祐一「なるほど…それで秋子さんがいないのか…」
いつもならダイニングに秋子さんがいるはずなのにいなかったのも頷ける。

 
 
 
 

…ちなみにまったく気付かずに香里を秋子さんだと思って話してたのは内緒だ。 
 
 
 
 

香里「…どうも様子がおかしいと思ったら…そういう事だったのね」
祐一「な、なんだ?」
香里「声が出てたわよ…」
祐一「ぐお…」
香里「ま、それはいいとして…とにかく、あたしが名雪と相沢君のことを頼まれたのよ」
祐一「…ん? 秋子さん頼まれたのか?」
香里「ええ。名雪はどうせ起きないだろうし…相沢君が朝ご飯食べられないのもかわいそうだと思って引き受けてあげたわ」
祐一「おおっ! それは感謝するぞ香里っ!」 

 

なんだかんだ言って、朝食を食べる習慣がついてしまった者が朝食を抜いてしまうとなかなかしんどいのだ。
それに名雪と登校していると毎日全力疾走。
昼までもたすのはなかなか難儀なのである。
 

香里「あら、ずいぶんと喜んでるわね」
祐一「今日から香里ママと呼んでやろう」
香里「却下」
祐一「…秋子さんの了承並に早かったな」
香里「それじゃあ今日から相沢君は祐ちゃんね」
祐一「…俺が悪かった」
香里「…ふふっ」
俺がそう言うと香里は香里は不敵(にしか見えない)な笑みを浮かべた。 

香里「相沢君、そろそろ時間危ないから名雪を起こしてきてくれる?」
祐一「…ああ。そうだな」
名雪「………うにゅ」
言った矢先に名雪がタイミングよく現れる。

香里「あら、必要なかったみたいね」
名雪「おはようございます………」
香里「ほら、さっさとご飯食べて。急ぐわよっ」
名雪「…うにゅぅ」
返事なのかなんだかわからない言葉を返す。 

香里「ひょっとしていつもこんな感じなの?」
祐一「いつもこうだぞ」
香里「…予想はしてたんだけど…」
祐一「予想以上だったか?」
香里「少し相沢君を尊敬したわ…」
祐一「さすがは俺といったところだろう」
名雪「はぐはぐ…」 

名雪は寝ぼけ眼のまま器用にパンを食べている。
よくもまあ自分の手を噛まないものである。

香里「あたしたちも急がないと」
祐一「こんなもん10秒で食えるぞ」
そう言って目の前のパンを一気に食べる。
香里「…つまるわよ」
祐一「そんなことな…ぐっ」
香里「ぐ?」
祐一「ぐ…ご………」
香里「ほら言わんこっちゃない…」 

香里が俺の背後に回る。
ぽんっ、ぽんっ。 

香里「大丈夫?」
祐一「み…ず…」
香里「…っとそうね、ごめん!」 

ぱたぱた… 

…息ができん………
このままでは死ぬぞ…
 
 
 
 
 
 
 

バタッ。
 
 
 
 
 
 
 

香里「…相沢君! 水っ!」
祐一「………」
香里「ねえっ! 相沢君っ!」
祐一「…………」
香里「ど、どうしよう…」
祐一「…………」
香里「…………」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

………ち」

………いち」

「祐一っ!」

誰かの呼ぶ声。
………誰だ? 

名雪「祐一っ!」
祐一「………なゆき…か?」
名雪「よ、よかった…気が付いたよ〜」
祐一「………えっと俺…」
なんだか頭がボーっとしてしまう。 

香里「パンを喉に詰まらせて呼吸不能になってたのよ」
祐一「そう…だったな」
香里「まったく…馬鹿馬鹿しいったらありゃしないわ」
祐一「…ああ…悪かった」

何も言い返せなった。
名雪はもちろん…
香里も涙目だったからだ。
目元も赤く腫れていた。

祐一「こりゃ…遅刻確定だな」
名雪「もう一時間目終わっちゃったよ…?」
香里「ずいぶんなサボりになっちゃったわね…」
祐一「ああ…悪い」
香里「まったく…」
祐一「悪い」
名雪「祐一…そればっかり」
祐一「悪い」
香里「…ふふっ」
名雪「本当によかったよ〜」
香里「そうね…」
名雪「…わたし、寝ぼけてて全然気付いてあげられなかったから…」
祐一「…俺もよく覚えてないんだが…どうやって助けたんだ?」
香里「えっ? えっとね…そうっ! 横に寝かせて水を無理矢理飲ませたのよっ」
名雪「わっ、そんなことしたの?」
香里「た…助かったんだからいいでしょっ?」
急に慌てふためく香里。 

………。 

香里「そ、それより相沢君、もう大丈夫?」
祐一「…ああ。もうばっちり元気だぞ」
起き上がってガッツポーズをとる。
名雪「わっ、ほんとだ」
祐一「…心配かけたがもう平気だ。さあっ! 学校に行くぞっ!」
香里「…えらい元気ね」
名雪「ほんと、ほんと」
祐一「気にするな。さ、行くぞ」

…大遅刻になってしまったがおそらく昼休みには辿り着けるだろう。
 

あきらめつつも通学路を走る。
…しかし名雪は足が速い。
俺と香里の遥か先を走っている。

祐一「くそ…こっちは病み上がりだってのに…」
香里「気を遣ってるんじゃないの?」
祐一「…誰にだ?」
香里「ふふっ、内緒よ」
祐一「…………」
 

祐一「…香里。そういえば…」
俺はひとつ、試してみることにした。 

香里「え? 何?」
祐一「その…なんだ…あれは人工呼吸…だよな?」
香里「えっ? ええええ? まさか相沢君…意識があったのっ!?」
香里が足を止める。
祐一「…………」

祐一「…ってことは…したのか?」
香里「あ…」
そのまま硬直する香里。
…まさか本当にやってるとは思わなかった。

香里「し…仕方ないでしょっ! だって…………その…命に関わることだし…」
最後のほうは殆ど聞こえなかった。
祐一「…………」
香里は涙目になり俯いてしまう。 

祐一「…悪い」
香里「…本当に心配したんだから…」
祐一「香里…」
香里「………まあ相沢君が無事だったんだから…いいでしょ?」
顔を上げた時は笑顔に戻っていた。 

祐一「…そうだな」
俺も表情が緩む。
香里「………責任取ってよね」
祐一「ん?」
香里「………その…なんていうか………」
祐一「…なんだ?」
香里「………………………のよ」
祐一「聞こえないぞ?」
香里「だ………だからっ!」
祐一「だから?」
香里「は………初めてだったのよっ」
祐一「は………?」
初めて?? 

祐一「それって………ファースト…」
香里「い、言わないでよっ!」
香里の顔がみるみる赤くなる。 

祐一「おまえ…」
香里「わ…悪かったわねっ!」
祐一「………」
香里「だって…とっさのことだったし………混乱しちゃって…どうしていいかわからなくなっちゃって…それしか思い浮かばなくて…」
祐一「香里…」
香里「…相沢君だったら…あたし…」
祐一「…………」

祐一「…祐一、だろ」
香里「え?」

俺は香里の口を塞ぐ。

香里「あ………」

香里も俺に身を預ける。
 

………そして…長い二度目の口付けを終えた。
 
 

香里「…………いいの? あたしなんかで」
祐一「ああ、むしろ大歓迎だぞ」
香里「相沢君…」
祐一「だから祐一、だ」
香里「…ふふっ、それじゃ行きましょうか祐一君。名雪が拗ねちゃうわよ?」
祐一「おっとそうだな」 

二人一緒に走り出す。

そう。
俺たちの新たなスタートを………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

香里「…言ってて恥ずかしくないの?」
祐一「うるさいな…すこしは感動に浸らせてくれ」
香里「…ほんとに祐一君って変わってるわね」
祐一「…どういう意味だ?」
香里「ふふっ。言葉通り、よ」 

そう言った香里の顔は今までで一番輝いていた。
 
 
 


SPUさんのコメント

どうも。
香里誕生日記念に書いた初の香里SSです(爆)

香里萌え計画のつもりで書いたのですがどんなものでしょうか?
感想などいただけるととても嬉しいです。
やはり香里はいいですねえ(笑)


KAIEIです・・・

朝、起きると香里がいた・・・
しかもエプロン・・・

はぁ〜・・・・・了承



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